※ このページは、2000-2004年まで続いたHP『津軽海渡のデジカメ紀行』に掲載していた写真や文面を、そのまま復刻させたものです。
   リンクは既に繋がっていないものが殆どであるため、その旨御了承下さい。
 
 
本日【2003年5月5日(月曜日)】の1枚の写真は!?
 
 
【縁の下のマメコバチ/りんごの花が咲いたよ 1】
 
 
  本日は8枚の写真を掲載いたしました。


  コンピューターが各家庭の普及し、より便利で快適な生活を送れるようになった現代の私たち・・・。
  一方で、人の手を借りず、自然が本来持つ力に頼り、現代世界から逆行しはじめている暮らしもあるのだと感じさせられた。

  桜の季節が終わり、津軽地方はいよいよりんごの花が開花する春を迎えようとしている。
  全国的な日本晴れに恵まれたゴールデンウィーク後半の一昨日(土曜日)、私は市内からバスで20分ほどの場所にある『りんご公園』へと向かった。
  岩木山を望むこの『りんご園』では、一面に数多の品種の木々が植えられ、そろそろ咲き綻びようとしている花を自由に楽しむことができる。
「さあて、咲いたりんごの花はないか?」と探してみたところ、なかなかめぼしい木が見当たらない。
「これはいいぞ!」と思えば、『私有地につき立ち入り禁止』と有刺鉄線が張ってあったり・・・。
  後にりんご農家の人から聞いた話では、『りんご園』として観光化され、全国各地から客が来るのは良いが、中にはりんごを盗んで行く人間が後を絶たないのだという。
「一個、二個、摘んで持ってゆくなら許せるけど、中には箱を持ってきて盗んでゆく奴もいるんだ・・・」
  このようなことがあってから、『りんご園』以外の農家は、りんご畑に自由に入れないように、自衛策を講じているらしい。

  ということで私の場合は、写真の被写体に相応しいりんごの木があったら、近くに農家の人がいた場合は、一言声をかけてから畑に入るようにしている。近くに農家の人が居なかった場合は、仕方がないので来たら挨拶をすることにし、自由に撮影させて貰っている。まあ、『残すのは足跡だけ、とるのは写真だけ』というどこかの国立公園の標語に従うという訳だ。

  そうしてことわりを入れて、りんごの花を撮影していると、私はあることに気付いた。
  この『りんご園』近くのりんごの花びらが、どれも決して綺麗ではないのだ。花が咲いて間もないのに、既に花びらの周辺部が穴が開いていたり、枯れていたりするのである。
  先日りんごの蕾を撮影したりんご畑の花びらは、どれも綺麗だったのに・・・
  やがて、その花びらを枯らしたり穴を開ける犯人を私なりに推測した結果が、本日掲載したマメコバチという蜂なのである。

  マメコバチは蜂であるにも関わらず、刺すための針を持たない。
「だから子供でも安心して触れるんだ・・・」
  私が写真撮影に際し、一言ことわりを入れておいたりんご農家の成田さんという人が後に側にやってきて、そんなことを話してくれた。
  マメコバチは、写真7のような細い筒に巣を作り、幼虫やサナギで越冬し、餌となる花の蜜が採取できる今の季節に成虫となり、激しく飛び始めるらしい。
  最初生まれるのはオスらしく、後にメスが増え、オスはメスと交尾(写真7)後、死んでしまうという。
  卵を抱えたメスは、筒の中に卵を産み付け子孫を残してゆく。
  なぜにこの蜂をりんご農家の人が飼っている(写真8)かと言えば、もちろんりんごの花の受粉には欠かせない生き物なのである。

  これまでりんご農家の受粉作業は、開花中の短い期間に、多くのアルバイトによる人手を使い行ってきた。
  今の季節になると、津軽地方の新聞の求人欄には『人口受粉作業のアルバイト 日給6千円』という広告をよく眼にしたものである。
  10人雇ったら一日6万円の日当の他に、掛けることの日数、他に昼食代などを加えると相当額にも達するのだが、このマメコバチを使えば、巣の入ったりんご箱ひと箱が2000円。掛けることの24個ほどで小さな農家ならば済んでしまう。しかも確実に花粉を運んでくれ、巣箱を与えてやれば簡単に数を増やすことができ、越冬させると最初の出費だけで一生かからないということなのだから、りんご不況が続く農家にとっては無視できない存在なのだ。
「これで、全く人口受粉しなくていいのですか?」
  私がそう尋ねると、成田さんはちょっと考え、こんなことを話してくれた。
「りんごの実が結ぶ率が一番高いのは、他の品種の花粉を付けてやることなんだよね。蜂のように、花から隣の花へと飛んでゆくと、同じ木の花粉が付くことが多くなる。そうなるとなかなか実が成らなかったりするんだよね」
  なるほど、りんごの場合も近親交配は決して良いものではないらしい・・・。

  また成田さんは、こんなことを教えてくれた。
「受粉が終わると、害虫を防ぐために農薬を散布するんだけど、その農薬は接触毒、つまり散布した薬に触れる虫は死んでしまうんだ。だからマメコバチも当然死んでしまう。蜂がこうやって元気に飛び交うことができるのは、今だけなんだよね」
  役目が終われば、殺されてしまうことも知らずに一生懸命に働いている蜂たち・・・。
  りんご農家にとっては、夏になれば消えてしまう、まさしく縁の下の力持ちならぬ、マメコバチなのだろう・・・。

  人間は自然を破壊し、科学を信奉する一方で、自然が持つ治癒力や不思議な力を認識し始めてもいる。
  マメコバチの活躍は、りんご農家の明日をも担う救世主として、これから広く広まってゆくに違いない。

  ところで、冒頭に書いたりんごの花びらを枯らす原因というのは、マメコバチが、まだ花が開かぬ内から花びらをこじ開け、中の蜜を吸うために、そのような状態になってしまうらしいのだ。
  花が開いてからでは、多くの蜂たちがやってきて、既に蜜はなくなってしまうために、蕾のうちから青田刈りをする。それで花びらが傷ついていたのだ。(今回は花びらの美しい美人さんだけを選んで掲載しております)
  生きるか死ぬかの戦いが、こんな白い花の上の戦場でも行われているらしい。

〔本日の写真は青森県弘前市清水富田にあるりんご公園にて撮影〕

撮影日〔2003年5月3日〕

※ 撮影したRAWファイルを『Photoshop』にて現像、JPEGに変換し、リサイズにより掲載。

【写真1】
 
【写真2】
 
【写真3】 蕾の赤いふじ(りんご)の花に止まったマメコバチ。
 
【写真4】 写真では可也大柄に見えるが、実際は1cm程度の大きさである。
 
【写真5】 写真4をトリミング掲載。
 
【写真6】 黄林(おうりん)のりんごの花に吸い付いたマメコバチのメス。
 
【写真7】 交尾をするマメコバチのオスとメス。蜂の中でも特にマメコバチはアリにそっくりである。
羽アリ(シロアリの成虫)っているけど、アリと蜂って親戚なのかな・・・
 
【写真8】  ひと箱2000円だというマメコバチの飼育箱。
「今年も蜂にがんばって貰わないとなあ・・・」と箱を見つめるりんご農家のおばあちゃん。
人を刺さない働き者の蜂がとても可愛いらしいのだ。

 
 
使用機材
撮影カメラ
Canon EOS-1D
撮影レンズ
EF50mm MACRO + 50mmマクロ専用ライフサイズコンバーターEF
EF100mm MACRO + エクステンションチューブEF25
FE35mm-350mm + エクステンションチューブEF25/EF16-35mm
その他
それぞれのレンズにPLフィルター使用