※ このページは、2000-2004年まで続いたHP『津軽海渡のデジカメ紀行』に掲載していた写真や文面を、そのまま復刻させたものです。
   リンクは既に繋がっていないものが殆どであるため、その旨御了承下さい。
 
本日【2001年8月20日(月曜日)】の1枚の写真は!?
 
 
【時速275キロから観る夏風景】
 
 
 本日は3枚の写真を掲載致しました。

 5年ほど前まで、夏休みが近くなると、おじいちゃんおばあちゃんが居る田舎へと、子供たちだけで新幹線で向う風景を写したテレビCMが流れたことがあった。
『ハックルベリー号』なるCMに纏わる特別列車も編成され、『帰省はぜひJRで』とアピールした広告が流れると、『あぁ、もうそんな季節なんだな…』と、毎回ブラウン管に流れる15秒の物語を、ついつい見入ってしまったものである。

 夏休みの季節の訪れは、大人になった今でも、なんとも言えない郷愁を誘う。
 このテレビCMを観ると、都会ではついぞ目にしなくなった緑色の田園風景や、青い空、白い入道雲、その畦道を、捕虫網を手に歩く幼い頃の自らの姿が、瞼の裏に浮かんでくるからだ。
 その頃は、まだ大好きだったおばあちゃんが生きていたこともあり、車でほんの20分ほどの距離ではあっても、お盆の時にしか訪れなくなった父の実家に行くのが、とても楽しみでもあった。

 実家に着くと、必ず井戸水で冷やされた大きな西瓜と、茹でたてのとうもろこしが私を迎えてくれ、その御馳走を腹一杯に食べた日は決まって、腹をこわして苦労したものだった。
 セミは鳴き続け、真夏しか見かけない鬼ヤンマが宙を舞い、西瓜売りは拡声器から、「甘い甘い西瓜だよ。甘い甘い西瓜につられ寄ってきた、人間の怖さを知らない甘い甘いカブトムシも売ってるよ」と叫び、私達を笑わせたものであった。
 すべての懐かしい想い出は、夏という季節と共に、やってくるのである。

 季節はいったいどのくらいのスピードで、日本列島を渡って行くのであろうか。
 大型の台風ならば時速15キロから35キロ程度となり、よく例えられるのは、自転車かバイクほどのスピードである。
 しかし、季節となると、全く検討がつかない。
 北から下りて来る紅葉前線は、九月の下旬に北海道から始まり、関東地方の平野部に辿り着くのは12月になってからであるから、およそ二ヶ月の開きがある。
 南からやってくる桜前線が日本で最も開花が遅い根室に辿り着くのも、おおよそそのくらいのスピードであろうか。
 そう考えると、〔約1300キロ÷(60日×24H)で計算すると〕時速にして約1.1キロということになる。
なるほど、季節とはその程度の歩みなのだが、こうして時速に換算してみると実に面白い。

 私は8月1日の帰省には、久しぶりに東北新幹線を利用した。
 現在の『やまびこ号』の最高速度は、275キロとのことだが、このくらいの速度になると、たとえシャッタースピードを『2000分の1秒』に設定しても、近くの物体は確実にブレて写ってしまうから驚異だ。
 写真1は、そんな近代的な新幹線の車窓から見た東北の風景だが、今も私の記憶の中にある風景のままなのがとても嬉しい。
 田園の緑は涼をよび、空の青さは、都会で灰色に染まりかけた心を洗ってもくれる。

 10年前には3時間以上もかかった盛岡までの行程を、私が乗った最速の新幹線は、2時間35分で結んでくれると謂う。
 松尾芭蕉が『奥の細道』にて、約3ヶ月近くかけて平泉まで歩いたことを考えると、その時速は季節の4分の1程度とも推測される。
 この俳人の場合は道草が多かったために、実際の移動速度とは謂えないが、当時の主な交通手段であった馬に乗って移動した場合はどうだったのだろうか。
 日本古来の馬が、時速45キロで走れたとしても(因みに現在の競馬馬は時速80キロ)、そのスピードが維持できるのがほんの約15分程度であり、舗装されていない荒れた道や山道を走ることを考えると、せいぜい20キロ平均ということになろうか。
 いや、鎌倉時代、蒙古に攻められた博多からの使者が、幕府にその一報を伝えるのに一週間を要したというから、実際は、氾濫した河を渡る術がなかったことを鑑みると、平均時速は10キロにも満たないものであったのだろう。
 そう考えると、新幹線のこの速度は正に驚異である。
松尾芭蕉を、もしこの新幹線に乗せたら、果たしてどんな俳句を読むのであろうか?

 新幹線に274キロ遅れで、確実に日本列島を渡っている夏という台風の目は、今、どこを歩いているのであろうか。
 北海道に辿りついた真夏は、秋という季節に衣替えし、またゆっくりと本州へと戻ってくる。

 夏という季節の中で、子供たちはどんな想い出を脳裏に収めたのであろうか。
 時速275キロで走る新幹線の中で、夏休み真っ只中の子供が眠っていた。
 やがて大人へと育ち行く彼の脳裏には、想い出という走馬灯が設えられ、夏という記憶の炎に揺れて、ゆっくりと動き出すに違いなかった。

〔本日の写真1は盛岡へと向う『やまびこ号』から撮影。写真2と3は東京駅にて撮影〕

撮影日〔2001年8月1日〕

【写真1】 2000分の1秒のシャッタースピードであっても、
近くのものは確実にブレて映ってしまう速さだ。

ミノルタ DiMAGE7で、オート(プログラム)撮影。画質/ファイン。
 
【写真2】 ミノルタ DiMAGE7で、オート撮影。画質/ファイン。
 
【写真3】 新幹線のボンネットには、このように鳥がぶつかった跡が
生々しく残っている場合が多い。
時速300キロ近い物体が走って来る様は、鳥にも
回避予測ができないのかも知れない。

写真2をトリミングして掲載。画質/ファイン。

 
 
使用機材
撮影カメラ
MINOLTA DiMAGE7