※ このページは、2000-2004年まで続いたHP『津軽海渡のデジカメ紀行』に掲載していた写真や文面を、そのまま復刻させたものです。
   リンクは既に繋がっていないものが殆どであるため、その旨御了承下さい。
 
本日【2001年8月1日(水曜日)】の1枚の写真は!?
 
 
【水/きよみず】
 
 
本日の写真は、久しぶりに本来の『一枚の写真』に戻り、たった一枚だけの掲載と致しました。

世界一美味しい飲み物は何だろうかと、ふと思ったことがあった。
世界一美味しい食べ物ならば、随分と迷う問いだが、飲み物としての世界一をあげるなら、私はやはり“水”と答えるだろう。

美味しい水の記憶は、私の中に幾つかある。
体育を終えた後の、上向きの蛇口から飛び出る学校の水道の水。
遠足で呑んだ、冷たい氷の入った、自宅から持参した水筒の水。
津軽のおばあちゃんの家で飲んだ、井戸から汲み上げた鉄臭い井戸水。
そして、白神山地の奥にて、登山の疲れを癒しながら、思いっきり口にした冷たい涌き水。
どれもがみな、私にとってはかけがえのない御馳走とも謂える水であった。

私は定期的にフィットネスジムにて汗を流すこともあり、栄養面にはこれでも大分気を遣ってはいるが、意外に身体の殆どを形成している水分に関しては無頓着であった。
水にはカルシウムを多分に含み、その多くをヨーロッパに依存している“硬水”と呼ばれるミネラルウォーターと、その逆に日本の土壌からとれる水のように、カルシウム分を余り含まない“軟水”があることを知ったのは、つい最近のことである。
昔から酒作りには硬水が適しているとされ、カルシウムを多く含む水が産出する岩手が、日本一の酒どころとして有名なのだと知ったのも、同じ頃であった。
水の質は、酒作りにも大きな影響を与えているが、私達により身近な飲み物も、水を介して味が大きく変わる。
ヨーロッパで飲んだ珈琲を買って来て日本で飲んだ場合、味が大分違って感じるのも、水に含まれるミネラル分がそれぞれ違うことがあげられるらしい。

以前にも書いたが、同じ涌き水であっても、ブナ林が多い白神山地で飲んだそれはとても甘いのに対し、白神山地に隣接する岩木山で飲む涌き水は、山の名の通り、岩を濾過して流れてくるだけに、とても硬い味がするのだ。
しかし、味は違えど、美味しい水の条件に欠かせないのは、水が澄んでいることであろう。
生き物が廃する水分や、地上を流れる水が直接流れこまないせせらぎ、つまり、雨水を岩や土が濾過しただけの水は、とにかく美味い。
このような水を水源とする水道も科学的に美味いとされているが、本当に美味しいと感じる瞬間は、先に書いたように、運動などによって“喉が乾く”状態を経て喉に通す水であろう。

空腹であることが、御馳走を食べる上での何よりの薬だと謂われているが、水の場合も同じことが言えるのかも知れない。
そう強く感じた一瞬があった。
去年、鎌倉の紅葉を撮りに歩いた時、いつもなら持参していた飲料用のペットボトルを忘れて歩いた時であった。
長らく歩き、鎌倉宮まで来た時、「この撮影を終えたら、どこかの売店でジュースでも買おう」と心に決めつつ撮影していた。
その折に、本日の『一枚の写真』に写った光景が現れたのである。

どこの寺にでもある手洗い所であるが、石の上に張った水が秋の陽を反射させ、脇からはちらちらと溢れ出た水が音を立てて流れつづけていた。
石の窪みの中は、綺麗に磨かれて輝き、水蘚など生えている気配はなく、とにかく、よおく手入れされた水受けであった。
この水を見ての第一印象は、まず、「の、飲みてえ〜!!」であったことは言うまでもあるまい。

手洗い所での作法は、まず柄杓に水を掬い、脚を洗う。つまりは下から順に洗って行くのであるが、現代では、草履のようなもので歩き、脚が汚れているということは滅多にないので、まずは作法通りだと、片手を洗い、今度は柄杓を持ち替え、もう一方の手を洗う。
手を清めた後に、口元に運び、軽く口をゆすぎ水を吐き出し、参拝に向うというものであるから、その過程で飲むことも許されている筈である。
水道のない古い時代、長旅を経て、手足は汚れ、喉も乾いて寺に辿りついた人間をもてなす一番の御褒美が、この手洗い所の水であった。
水道から綺麗な水が供給されていない当時にあっては、寺で与えられる水こそが、清めの水であり、飲んでも安全な清水(きよみず)だったに違いない。

今でこそ手洗い所にて手や口を清め、参拝する人の数は減ったが、水は何よりも参拝人に大切な寺や神社の一部なのである。

しかし、私が撮影の後、水を飲もうと決め込んでいると、同じ黒服に身を包んだ修学旅行の集団がやってきて、その機を逸してしまいとても残念であった。

今、こうして見ても、やはり私は同じことを考えてしまう。
「の、飲みてぇ〜!!飲んでおけば良かったァ〜!!」と。
柄杓に口をつけて飲む手洗い所の水も、もしかしたら絶句するほど美味しいのかも知れない…

明日はいよいよ、ねぷた祭で燃える短い津軽の夏を切り取った『一枚の写真』をお送り致します。
(予定が変更になる場合もございますので、予め御了承下さい)

〔本日の写真は鎌倉市鎌倉宮境内にて撮影〕

撮影日〔2000年12月8日〕

旧Canon IXY-DIGITALにて+1と2/3露出補正し撮影。
ホワイトバランス・曇り。
 
 
使用機材
撮影カメラ
Canon IXY-DIGITAL